「3.比況のヨウダと推量判断のヨウダ」の「3.1 ヨウダの用法」は次のように記しています。
「ヨウダ」には比況、推量判断、例示、婉曲などの用法がある。
(12)a.顔の色艶を見ると、この人はまるで生きているヨウダ。(比況)
b.顔の色艶を見ると、この人はどうやら生きているヨウダ。(推量判断)
c.たとえばピーマンのヨウナ緑黄色野菜は健康にいい。(例示)
d.(車が来たのを見て)社長、どうやらお車が来たヨウデス。(婉曲)
ここでは「ヨウダ」が一語として扱われています。語と句、連語の区分も明らかでないままに論じられているため、本論文が混迷し、誤った主観性の差異を論ずることになっています。
これまで明らかにしてきた通り、「ヨウダ」は、「ヨウ」+<指定・断定の助動詞>「ダ」です。従って、「ヨウ」がいかなる品詞で、どのような意義を持ち、文でどのような意味を表しているのかを明らかにしなければなりません。このことは、c.が「ヨウナ」となっていることからも、論者自信が無意識のうちに「ヨウ」を一語と認識して、これに「ナ」を累加している事実からも明らかです。また、「明日は雨のよう!」や「(精巧な彫刻を見て)まるで生き物のようね!」といった使い方をします。「ヨウダ」を一語で<助動詞>としているため、学校文法(橋本文法)では形容動詞型の活用としていますが、劉論文でも指摘した通りこの形容動詞という品詞がそもそも誤りで混乱をまねく元凶となっています。また、敬辞の場合は、「ヨウデス」と、「よう」+<丁寧な断定の助動詞>「です」となり、「ヨウダ」は一語でないことが明らかです。
このように、「ヨウダ」を一語の<助動詞>とするため、比況、推量判断、例示、婉曲の用法とせざるを得なくなり、さらに「ソウダ」と比較するという混乱に陥っています。
「ヨウ」には、まず<名詞>、<抽象(形式)名詞><接尾語>があり大辞林 第三版『大辞林第三版』では<名詞>「よう」が次のように記されています。
よう【様】
①ありさま。様子。すがた。 「書きたる真名(まんな)の-,文字の,世に知らずあやしきを/枕草子 103」
②決まったかたち。様式。 「人の調度のかざりとする,定まれる-あるものを/源氏 帚木」
③やり方。方法。 「ふないくさは-ある物ぞとて,鎧直垂は着給はず/平家 11」
④事情。理由。わけ。 「かせぎ(=鹿)恐るる事なくして来れり。定めて-あるらん/宇治拾遺 7」
⑤同様。同類。 「必ずさしも-の物と争ひ給はむもうたてあるべし/源氏 夕霧」
⑥(形式名詞的に用いて)
㋐発言や思考の内容。こと。「ただ押鮎の口をのみぞ吸ふ。この吸ふ人々の口を押鮎もし思ふ-あらむや/土左」
㋑発言や思考の引用を導く言葉。…こと(には)。「かぢとりの言ふ-,黒鳥のもとに白き波を寄す,とぞいふ/土左」
⑦動詞の連用形の下に付いて,複合語をつくる。
㋐ありさま,様子などの意を表す。 「喜び-」 「あわて-」
㋑しかた,方法などの意を表す。 「言い-」 「やり-」
⑧名詞の下に付いて,複合語をつくる。
㋐様式,型などの意を表す。 「天平-」 「唐(から)-」
㋑そういう形をしている,それに似ているなどの意を表す。「寒天-の物体」 「カーテン-のもの」 → ようだ ・ ようです
このように、〔よう【様】〕は本来<名詞>であり、そこから」<抽象(形式)名詞>の用法が生じています。さらに⑦⑧の用法から<動詞>に連加する接尾語となり、現在はこの用法が主要になっています。この接尾語から、さらに推量の助動詞の用法に移行したものが生まれ、多義となって使用されています。これは、「らしい」が、
「学生らしい勤勉さ。」 (属性)
「彼は学生らしい。」 (推量)
と使用されるように抽象的な内容の客体的表現である接尾語から、主体的表現である助動詞への転成が起っているのと同様な現象といえます。
この品詞区分に従い、(12)の例を見ると、a.の「まるで生きているよう」は「様子」の<名詞>から<抽象(形式)名詞>を経て<接尾語>となっているのが判ります。c.の「ピーマンのヨウナ緑黄色野菜」は属性を表す<接尾語>になっているのが判ります。そして「ピーマンのよう」に、「にあり」が「なり」→「なる」から「な」となった主体的表現の判断辞である「な」が累加されて「ピーマンのような(る)緑黄色野菜」と表現されています。ここでは比況の接尾語が表現としては例示の意味となっています。e.では全く<接尾語>になってしまっており、<用言>「来た」に接尾語として付加されています。これは、比況という接尾語の不確実性から婉曲の意味となっています。
そして、b.は推量判断の「ヨウ」で助動詞となっています。このように見てくれば、各々が品詞「ヨウ」に<助動詞>「だ」、「です」や<判断辞>「な」、<感嘆詞>「ね」他が累加されたり、終止形として使用されているのが判ります。■