2015年08月17日

英文法に見るテンス解釈 (1)

   『謎解きの英文法時の表現』久野すすむ・高見健一 ()[くろしお出版(2013/8/10)  

  前回、機能的言語論の時制論について新聞記事を題材に欠陥を明らかにしましたが、当然ながら英文法の時制アスペクトの解明も同様なレベルでしかありません。先に紹介したバーナード コムリー  (), Bernard Comrie (原著), 久保 修三 (翻訳)『テンス』(開拓社 2014/9/19)の通り、典型的には<発話時>を基準として過去・現在・未来を定義しています。これでは、新聞記事一つ解明できないことを前回示しました。今回は首記の著書が「謎解き」を出来ているか否か見てみましょう。本書の著者の一人である久野暲(すすむ)氏は60年代より生成文法により日本語を研究しハーバード大学に渡り『The Structure of the Japanese Language』他、自動翻訳や文法論等多数のを著書を出され、名誉教授でもある88歳の大家として知られています。

 「はしがき」では、「The bus is stopping.」という文は「バスが止まっている」という意味なのでしょうか、と問題提起し次のように記しています。 

 本書は、このような英語の疑問に答え、「時制」と「相」(アスペクト)(動作や状態の完了や継続を表す文法事項)に焦点を当て、「時」の表現に関わる多くの謎を解こうとしたものです。 

 と記されていますが、残念ながら現在の定義も、過去とは何かも、そして「相」(アスペクト)とは何かも解明出来ずに、単に現象や機能の説明に終始しています。機能とは「ある物事に備わっている作用、働き」でしかなく、それは本質の作用、機能であり、明らかにされるべきは本質でなくてはなりません。第2章では「現在形は何を表わすか(1)」と現象を問います。ここでは現在形が現在だけではなく、次のように過去も未来も表すのは、表現としてどのように異なっているのか、どのように説明されるかが問題とされます。言語表現における現在とは何か、何ゆえに過去や未来が表せるのかという本質を問うことは最初から放棄されています。それは、彼らの言語本質観がアプリオリに文として実在するとみなすところから出発する言語実体観でしかないからです。そこからは、言語、表現の本質を問う発想は生まれず、現象や機能を説明するしかありません。文を直接に支えているのは話者の認識ですが、これを扱えない言語論では文と対象を直結するしかなく、表現の過程的構造を取り上げられない論理的必然です。参考までに、「本質」について辞書を見てみましょう。

  大辞林第三版の解説   ほんしつ【本質】

①物事の本来の性質や姿。それなしにはその物が存在し得ない性質・要素。 「問題の-を見誤る」

  ②〘哲〙〔ラテン essentia;ドイツ Wesen

   ㋐伝統的には,存在者の何であるかを規定するもの。事物にたまたま付帯する性格に対して,事物の存在にかかわるもの。また,事物が現に実在するということに対して,事物の何であるかということ。

   ㋑ヘーゲルでは,存在から概念に至る弁証法的発展の中間段階。

   ㋒現象学では,本質直観によってとらえられる事象の形相。 


 第1章は<willは「未来時制」か?>と題し、最初に●willと「~だろう/でしょう」が論じられています。

ここでの問題は、次の文の助動詞willや日本語の「~だろう/でしょう」は、未来時を表す未来時制と言えるのかどうかです。 

  aHe will be in New York next year.  [現在時]

    b 彼は来年ニュ-ヨークにいるだろうでしょう [現在時] 

これらの表現が、現在時を表す要素と一緒に次のように用いられるのが指摘されます。 

  aShe will be out now.  [現在時]

    b.彼女は、外出中だろうでしょう [現在時] 

さらに次のように、未来時は動詞の現在形で表すこともできます。 

 a.He leaves for London tomorrow[未来時]

b.彼は明日ロンドンへ出発する。  [未来時] 

<「過去、現在、未来」という3つの時(time)と、それらを表す形、時制(tense)は、どのように対応しているのでしょうか。特に、学校文法(伝統文法)では、willは未来時を表す未来時制であると言われてきましたが、本当にそうなのでしょうか。日本語の「~だろう/でしょう」はどうなのでしょうか。英語や日本語に未来時を表す未来時制はあるのでしょうか。>と問題提起し、<●「~だろう/でしょう」は「推量」の助動詞>と論が進みます。まず、日本語の「~だろう/でしょう」から考えことになるので、次回、著者らの日本語理解の程度を含めじっくり検討することにしましょう。■

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