2015年05月12日

山田孝雄(やまだ よしお)の<助動詞>「複語尾」説 2

  <体言>の「陳述の力」と「属性」

 先に<用言>を<動詞><形容詞>としましたが、山田が「陳述の力」と「属性」について論じていますので、これらの概念について説明するためにもまず、<体言><用言>の区分について述べましょう。山田は次のように主張しています。

 「元来体といふ語は用に対する語にして用は作用現象などの義、体はそれに基づく実体をさすものにして、支那の儒学特に宋学の盛に用ゐたる述語にして、それの基づく所は仏教にて体相用の三を相待的に用ゐしにあるが如し。これらの体は英語にていふ Substance の義なり。語の分類上にては哲学にていふが如き厳密の実体といふ程の意義にはあらざれども、かの形のみを見て、語尾変化なき語の一名なりとする如きは当らざること勿論なり。」

 つまり実体を表わす語を<体言>とし、その実体が及ぼす作用そのものや、作用の現象を表わす語を<用言>と名付けたわけで、実体を表わす語はすなわち<名詞>であり、その作用を表わすのが<動詞><形容詞>ということになります。そして、<名詞>には活用がなく、<動詞><形容詞>には活用があります。そのため、今度は体・用の区分の基準として内容だけではなく活用があるか、ないかという語形変化も基準に採り入れることになり混乱が始まります。先の学校文法の定義でも活用の有無が品詞分類の基準になっていますから、これを無視することができません。さらに実体を把握し表現する<名詞>には活用はありませんが、実体以外を表わす語にも形容動詞の語幹といわれる「きれい」「おだやか」「静か」「親切」には語形変化がなく体用の区分が当て嵌まりません。こうした問題がありに二文法も一筋縄ではいきません。

 しかし、ここでは<体言>を<名詞>、<用言>を<動詞><形容詞>と考えて先に進めましょう。そうすると<体言>である<名詞>が実体を表わし、<用言>である<動詞><形容詞>はその実体の属性を表わしていることが判ります。つまり、砂糖は甘く、川は流れ、人が走り、子供は学校へ行くというような関係になります。つまり、「川」「人」「子供」「学校」は実体としての<名詞>であり、「甘い」「流れる」「走る」「行く」が動詞として属性を表わしていることになります。

ところが、「個々の概念の必要なることはいふを俟たざるところなれど、個々の概念のみ存してもこれらを統一判定する作用なくば、思想の完全なる結成となることなし。かく統一判定する作用を言語にあらはしたるもの即ち用言なり」と「統一判定する作用」である「陳述の力」を<用言>である<形容詞>「甘い」や<動詞>「流れる」「走る」「行く」が「属性」と共に表わしていると主張するわけです。

 そのことは、三浦が説明しているように、
 
 「甘い」についていえば、「甘」という対象のの属性の表現はどれにも共通していてこれが用言には特有ではないと見、この属性を除いたところに用言の本質がある

 とし、<「甘」の部分を除いた残り、すなわち活用の部分が「陳述の作用をあらはす」ことにならないわけにはいかない。>ことになります。さらに、用言の本質は対象の属性をとらえた客体的表現ではないことになります。この「客体的表現」というのは時枝が「概念過程を含む形式で表現の素材を、一旦客体化し、概念化」した単語として「概念語」又は「詞」と名付け、三浦が「話し手が対象を概念として捉えて表現した語」と定義し、「客体的表現」と名付けたものです。

 従って、「国語の動詞はその活用形にて種々の陳述をなすもの」となるしかありません。つまり、先に記した文で「甘く」が「甘い」になると「く」「い」が「陳述の力」を表わすことになるしかありません。<動詞>では、「流れ」が「「流れる」になるように「れ」「れる」又は、「る」が「陳述の作用をあらはす」という奇妙なことになります。もっとも、言語実体論にたつ現代の言語学者や国語学者、先の記述文法を奉ずる人たちにとっては奇妙ではないかもしれません。

 さらに<動詞>+<助動詞>である「走ろう」「走るだろう」「行こう」「食べよう」の<助動詞>「」「だろう」「よう」が「その属性の表現の状態、又は陳述の委曲なる点等をあらはし得ざることあるが故にさる時に、その活用形より更に複語尾を分出せしめて種々に説明陳述をなすものなり。」と「複語尾」とされます。このようにして、

 「複語尾は用言の語尾の複雑に発達せるものにして、形体上用言の一部とみるべきものにして、いつも用言の或る活用形に密着して離れず、中間に他の語を容るることを許さず常に連続せる一体をなすものなり。」

 ということになります。これに対する、三浦の指摘を次に見ましょう。■

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